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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)85号 判決 1995年6月09日

静岡県浜松市海老塚一丁目六番六号

上告人

高見征

大蒲町一一八番地の五

上告人

高見征邦

海老塚二丁目一八番三〇号

上告人

高見秀邦

右三名訴訟代理人弁護士

三井義廣

静岡県浜松市砂山町二一六番地の六

被上告人

浜松東税務署長 山口文夫

元目町一二〇番地の一

被上告人

浜松西税務署長 納屋昭宏

右両名指定代理人

小沢満寿男

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行コ)第一二二号贈与税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成六年一月二六日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人三井義廣の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、上告人らに対して課される各昭和五九年分贈与税に係る各課税価格及び税額が本件更正に係るそれを下回るものではないとした原審の判断は、是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原判決の結論に影響しない部分についてその違法をいうに帰するものであって、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成六年(行ツ)第八五号 上告人 高見征 外二名)

上告代理人三井義廣の上告理由

一、相続税法第二二条は、贈与により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価によると規定している。この規定の下に、国税庁長官は相続税財産評価に関する基本通達を定め、課税実務上は、この評価基本通達に基づいて財産評価が行われている。

したがって、財産評価の過程において評価基本通達の解釈・適用に誤りがあれば、結局相続税法第二二条の解釈、適用に誤りがあったこととなる。

二、一画地の認定基準について

1.評価基本通達10は、宅地の価額は一画地の宅地ごとに評価するとし、一画地の宅地とは、利用の単位となっている一区画の宅地をいうとする。

この一画地の認定基準について、一審判決は、土地全体の状況と利用目的とを総合的に考慮し、近い将来それを一画地として利用する目的が具体的に定まっており、かつ土地の状況その他から見てその実現が確定的であると認められるような場合であると判断し、二審判決もこれを是認している。

2.しかし、このような基準によれば、現実に一体としての利用がされていない数筆の土地についても一画地として認定し得ることとなり、評価基本通達の文理に明らかに反する解釈である。通達10は、「利用の」単位となっている宅地というのであって、この場合の「利用の」とは、現実の利用を意味するものとしか解せない。利用の予定はあるものの現実の利用は開始されていない場合には、利用の単位となっているとは認められない。

3.また、このような基準は極めて曖昧かつ不明確なもので、課税庁の恣意的判断を招来する危険を多分にもつ。「目的が具体的に・・・」とか「実現が確定的で・・・」とはいかなる場合をいうのか不明確であり、どの程度に具体的であれば、またどの程度に確定的であればこれに該当することとなるのか、判断に迷うこととなる。課税は申告納税方式を原則とするのであるから、納税者が申告を行うに際して判断に迷うような基準ををえて設けることは妥当でない。「現実の利用」を基準とすれば、このような曖昧さは排除できるのであるから、あえて前記判決記載のような基準を設ける必要はない。

現に上告人が控訴審における平成五年九月二二日付準備書面一、1において例示した単純な建築事例について、判決記載の基準によった場合に、どの段階をもって一画地と認定するのかの疑問について被上告人は何ら回答しない。これは右基準によっても認定時期を一義的に特定できないからであり、正に右基準の不当性を露わにしたものである。

なお、通達1(3)は財産の評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するとするが、無限に広がる因果関係の流れの中で、その全ての事情を考慮することが不可能なことは、民法七〇九条の因果関係論と同様である。通達10の解釈において「利用の単位」とは「現実の利用の単位」をいうものとすれば、「現実の利用」を認定するに必要な事情を考慮することで通達1(3)の要求は満たされるのであり、不都合はない。

4.次に、一審判決の認定基準が貸家建付地の評価の場合と比べて一貫性がないとの上告人の主張について、二審判決は、貸家建付地の場合、借家人が現実に入居していない以上は借家人の敷地利用権は生じないことは明らかであって、減額評価すべき根拠はないのであるから、一画地の宅地としての評価基準との間の一貫性がないということはできないと判事する。

しかし、同様のことは一画地の認定についても言い得ることである。すなわち、「一画地の評価は数筆の土地を一体として利用していることに着目するものであるから、現実に一体として利用されていない以上は一体としての評価をすべき根拠はないのであって、いずれ一体として利用することが確実であっても、このことに変わりがない」と言い得るのである。したがって、二審判決の判示は貸家建付地の評価を異にする理由とはならないのであって、上告人が私的する一貫性の欠如の主張を排除する根拠とはなり得ず、他の評価実務と比較して特異な方法であり妥当性を欠くものである。

5.以上の理由により一審判決の認定基準及び二審判決の判断はいずれも法律の解釈を誤った不当なものであり、取消を免れない。

6.また、一審判決は、組合脱退者が生じたとしても共同ビルの建設が可能である限り一画地として評価すべきであるとし、二審判決もこれを支持している。しかし、そうであるとすれば、共同ビルの敷地として一体利用が確実であったのは、結局脱退者が脱退した後の現実に敷地となった部分のみである。脱退者らが個別に所有することとなった土地の部分は、結局一体利用が確実ではなかった土地といわざるを得ない。

そうすると、仮に本件土地を一画地と評価するとしても、その場合に対象面積は、第二次仮換地の面積六七〇九・二四平方メートルから脱退者六名の所有面積四三五・七一平方メートルを差し引いた六二七三・五三平方メートルとなるべきである。なお、この面積による場合には、各路線に接する間口・奥行は末尾添付の別表記載のとおりである。

三、C路線の取扱いについて

1.二審判決は、D路線を正面路線とした場合には、C路線はその位置からして側方路線であるというべきであり、正面路線と接触していないからといって、裏面路線であるとするのは相当でないとする。

しかし、右の理由は、評価基本通達16ないし18の解釈・適用を誤ったものであり、その結果、相続税法第二二条の解釈・適用を誤ったものであるといわねばならない。

すなわち、評価基本通達16は側方路線に関するものであるが、正面と側方に路線がある宅地を「角地」と表現しているように、二つの路線が接する角を含む土地を前提として評価方法を定めるものである。このような角地の場合には、各路線からの影響を有効に利用できることから、次の裏面路線よりも高い影響加算率(普通商業地区の場合〇・一、なお裏面路線では〇・〇五)が適用されるのである。そうすると、末尾添付別図1記載の甲土地のように、正面路線Aに対して位置としては側方にあるB路線に面していても、角がなく角地とはいえない土地の場合には、側方路線影響加算率を適用するのは不合理といえる。この場合、角地といえるのは乙土地であって甲土地ではない。さらに、同別図2の場合のように、路線は直角に交わる場合ばかりではないのであるから、この甲土地の場合に、B路線を側方とするのか裏面とするのかも判然としない場合が生ずる。この場合も角地といえるのは乙土地であって、甲土地についてはB路線は側方路線ではなく裏面路線としての影響加算率を適用すべきこととなり、そのように取り扱うことで側方・裏面の適用の基準が明確となる。

また、課税実務においても、甲第二一号証(倒壊税理士共同組合主催の研修会において配布された資料で、名古屋国税局資産税課長の講演に使用されたもの)記載のとおり、角地としての効用を有しない場合には、側方路線ではなく二方(裏面)路線の影響加算率を適用している。

そうすると、本件評価土地について、C路線を裏面路線でなく側方路線と認定し、その影響加算率〇・一を乗じて評価した一審判決及び二審判決はいずれも法律の解釈適用を誤ったものである。

2.さらに、二審判決は、奥行長大補正のあり方については、被控訴人らの主張を相当として是認できるとし、側方路線価額ないし二方路線価額を算定する際に奥行長大補正を行うべきでないと認定する。そして被控訴人の主張については、側方ないし二方路線加算は異なる系統の路線における人の流れを容易に吸収できることに着目して規定された評価方法であること、奥行長大補正率は奥行と間口の均衡がとれていない画地が、均衡のとれた標準的な画地に比べて低下する利用効率の割合を最も有効利用が期待される間口に対する奥行の割合を基として係数化したものであること、として要約しており、結局この主張を相当として是認したこととなる。

しかし、側方ないし二方路線の加算が、異なる系統の路線の人の流れを吸収できることに着目したものであるとすれば、その間口の広狭は、人の流れの吸収の難易の程度に大きな影響をもつのであるから、これを考慮しないのは不当というべきである。一般的に間口が広ければ路線が評価土地に及ぼす影響も大きくなり、狭ければ影響は少ないといえる。そして、間口の広さと評価土地の大きさの関係は、奥行の長さとして表すことができるのであるから、間口の広狭を考慮することは結局奥行の長さを考慮することと同じである。したがって、奥行長大補正は、最も有効利用が期待される間口、すなわち正面ばかりでなく、側方あるいは裏面についても同様に行うべきであり、この点の被控訴人の主張及び二審判決の判示は誤りである。

また、評価基本通達16(2)あるいは同17(2)の文理については、二審判決は、直ちに側方・二方路線価額算定に際し奥行長大補正を行うべきものであると解することはできない、とするが、この結論はいかなる文理解釈を行った結果であるのか明らかでない。逆に、側方ないし裏面路線の路線価を「正面路線の路線価とみなし」その路線価に基づき「計算した価額」とあるのであるから、右通達の文理上、奥行長大補正を行うべきであるとも解することができるのである。したがって、この点でも二審判決は誤りであり、本件評価土地については、C路線の路線価を算出するにあたり奥行長大補正を行わないのは、法の解釈を誤ったものといえる。

ところで、この点について、前記甲第二一号証の資料では、不整形地の側方ないし二方路線加算の計算をする場合、側方ないし裏面路線に実際に接する間口距離が想定整形地の間口距離に占める割合によって調整するとされ、これが課税実務の取扱いである。この方法は正に前述したように、側方ないし裏面路線であっても、間口の広狭による路線の影響の程度を評価に際して考慮しようとするもので、より直接的な方法であるといえる。この方法による場合、本件評価土地のC路線に面する部分について、想定整形地を求めると、そのC路線に面する長さは七八・七〇メートルとなり、実際に面する長さ一一・八三メートルは全体の〇・一五にあたる。これを裏面路線としての価額として算出すれば、その加算額は一四六二円となる。一審判決・二審判決は、このような実務の取扱いにも反するもので、法の解釈適用を誤ったものである。

四、C路線への間口部の評価、すなわち私道としての評価について

1.二審判決は、控訴人ら(上告人ら)主張の部分が不特定多数の者の通行の用に供されている私道であり、評価の対象とならない土地であるとは到底認め難いとする。

評価基本通達23は、私道の用に供されている宅地は一〇〇分の六〇に相当する価格で、その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは価額を評価しない、としている。このような評価方法としたのは、私道として利用されている土地については、所有者の使用収益がある程度の制約を受けているという事情を考慮したものである。

そこで、本件評価土地についてみると、C路線への開口部は、個連店グループ及びイトーヨーカ堂の利用者のほか、一般の通行の用に供されていることは明らかであって、これを上告人ら地権者らが勝手に門扉を設置するなどして閉鎖することはできないし、売却等処分することもできないのである。このようにC路線への開口部に通ずる部分は、上告人ら地権者らの使用収益が著しく制約を受けているのであり、これう私道と認定するのは当然のことといわねばならない。しかも、この私道の通行人は不特定多数の者であることも明らかであるから、その評価は零円となる。仮に零円とすることができないとしても、一〇〇分の六〇に相当する金額により評価することは認めるべきである。

したがって、二審判決のこの点に関する判示は法の適用を誤ったものであり、不当である。

五、本件評価土地の価額の計算方法について

以上のとおり、本件評価土地は、第一に一画地全体として評価すべきでないと考えるが、仮にこれを一画地として評価するとしても、第二にC路線の評価・私道としての評価等上告人主張の評価方法によった場合には、その計算方法は別表のとおりとなる。

そうすると、一平方メートルあたりの価額は一〇万五一八一円であり、上告人らの各取得分の評価額は、いずれも本件更正処分における評価額を下回る結果となる。したがって、上告人らの各主張は、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであり、二審判決は破毀を免れない。

以上

(甲第二一号証省略)

別図1

別図2

別表

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